TENGA VOICE

古川 潤哉(ふるかわ じゅんや)

#60

古川 潤哉 浄土真宗本願寺派 僧侶

コミュニケーションツールとしても秀逸です。

今回のゲストは、浄土真宗本願寺派の僧侶であり思春期支援の活動に関わる古川潤哉さん。従来の”お坊さん”のイメージにとどまることなく、医療・行政・教育の枠を越えて活躍の幅を広げる古川さんに、仏教ならではの性の問題の捉え方や、佐賀県内の中学校で行っている性教育の授業「生と性と死」についてじっくりお話しいただきました。

現在、思春期支援やHIVに関する支援など幅広い活動に関わっておられますが、そのきっかけは何ですか?

「もともとは市民活動としてホスピス・緩和ケアの理念の啓発や、病棟でのボランティアをしていました。緩和ケア病棟は末期のガン、HIVの患者さんが対象ですが、当時すでに末期ガンに関わるボランティアはある程度いらっしゃって、HIVに関する支援活動を行う人間が少ないということもあり、ドクターから『そちらを手伝ってもらえないか?』という申し出を受け、佐賀エイズ研究会で講演会などの企画や運営に関わることになりました。」

当時はどのような活動をされていたのでしょうか。

「HIVやその予防方法について広く知ってもらおうと講演会を開催しても、実際に参加されるのは固定メンバーでご高齢の方ばかり……。もっともハイリスクな層である若い人達に届いていないのでは意味がないだろう! と、お坊さん仲間や、佐賀大学医学部、看護学生などと協力してサークルを作り、クラブやライブハウスなどの若者が集まる場所に出向いてイベントを主催したりブース展開を行っていました。」

その活動から、思春期問題のケアにはどの様な影響がありましたか。

「そうこうしている中で気付いたんですが、若い子たちはただでさえ”男女交際”やら”恋愛”やらの悩みを抱えている。だから、性感染症などの様々なリスクやHIVの知識だけでなく、まずはそうした個人個人の悩みの部分からケアしていきたいと思い、『思春期支援』という分野にも関わっていく流れになりました。そんな中、”コンドームの達人”で知られる泌尿器科医の岩室紳也先生(厚木市立病院)とのご縁で、2006年の『AIDS文化フォーラムin横浜』にお招きいただき、『宗教とエイズ』という切り口から、患者さんや神父さんと、HIVを通して”生きるを考える”というテーマでお話しをしました。以降は横浜だけでなく、京都、佐賀でのフォーラムには立ち上げから関わらせてもらいました。」

佐賀県内の中学校で行っている教育活動について教えて下さい。

「佐賀県DV総合対策センターという機関が実施している、中学校向けDV予防プログラムの中の『エイズを通して命を考える』という枠をもらって、『生と性と死を考える』という授業を行っています。いま僕が担当しているのは公立中学校の3年生に向けたコマなんですが、3年生にもなるとそれまでにも何度か性教育の授業は受けているので、彼らとしては『また性教育?』っていう空気なんだけれど、僕は違った切り口からお話をしています。」

具体的にはどのようなお話をされるのですか?

「学校では色んなことを教えてくれますが、『死ぬこと』については習いません。だけど現実に誰しもがいつかは死ぬ、当たり前のことです。ちょっと唐突に聞こえるかもしれないけれど、死ぬのは私なんだということ、『生きること』と『死ぬこと』は正反対のことではなく、紙の“裏表”みたいなひとつのことなんだと伝えるのがこの授業です。さらには『生きる』と『死ぬ』があるのなら、『生まれてきた』ということについても考えなきゃいけない。そこには必ず『性』の問題が出てきます。これは次の世代に『生』を繋げていくという意味でも外せない問題です。健康教育としての『性』とは別に、『生きる』『死ぬ』、これから自分が『生きていく』という中には、常に『性』の問題も含まれているという考え方ですね。」

古川さんのお話を聞いた中学生達はどんな反応をされますか?

「みんな生から死に向かっている……というイメージが強いみたいなんですね。『生』がスタートで『死』がゴール。だけど本来は『生』がなければ『死』がないわけで、その反対も然り。もしも『死』がなかったら、ただ存在しているだけになってしまう。そうやって区切りがあるからこそ僕らは生きてるんだって話をすると、驚きつつも『言われてみればそうだなぁ』と納得してくれますね。」

性教育の授業に、袈裟を着たお坊さんが現れたらびっくりされませんか?

「確かにちょっと出落ち感はあります(笑)性教育っていうとお医者さんか助産師、保健師さんが来ることが多いので、『なんでお坊さんが!?』と分かりやすい反応をもらえて楽しいです。お坊さんへの偏見を逆手にとるやり方ですよね。ときどき『お坊さんが性について語って大丈夫なんですか?』と心配されるんですが、宗祖である親鸞(しんらん)さまは、綺麗事では無く人々の日常に寄り添った教えを説いた方ですし、結婚して家庭生活を営まれたので、浄土真宗では『性』の問題にも真正面から向き合うことができるんです。」

その世代の子ども達にとって『性』ってどんなイメージなんでしょう。

「中学3年生って、ちょうど性的なことへの関心が強くなる時期なんですが、エッチなことに興味津々の子がいる一方で、気持ち悪い関わりたくない……と感じてしまっている子の両方に切り離されてしてしまいがち。だけど自分のルーツを考えた時に、“エロから生まれた”ってのはちょっと違うし、“気持ちの悪いモノ”というのもおかしいでしょう? 特にこの世代の子達にはそこの境界が悩みのタネになりやすい。だから『性』の問題っていうのはもともと自分の中に存在していて、自分とは切っても切り離せないことなんだとニュートラルに捉えてもらえたらいいですね。」

お話しをうかがっていて、TENGAの目指すものと少し重なるところがあるように感じたのですが。

「そうですね。マスターベーションという行為そのものは恥ずかしいことじゃないんだということは、ある程度若いときに知っておいてもらったほうがいいと思っています。中学生くらいの段階で男女ともに直面する悩みなので、”普通”のことなんだと伝えたいですね。『男の子にとっては必修科目、女の子にとっては選択科目』というのは岩室先生の言葉ですが、特に異性への理解として男の子は”必修科目”のようにみんなやっていておかしくないと、対して女の子の場合は『する子がいればしない子もいる』という意味です。TENGAも同じですね、あくまで”自然な欲求”と捉えている。」

TENGAを初めて知ったのはいつですか?

「実際に手に取ったのは12年の『日本思春期学会』が初めてです。TENGAが泌尿器科のドクターと組んで行ったセミナーに参加し、商品のコンセプトや膣内射精障害の治療にも活用されているという話を聞いて、みんなはこれをアダルトグッズに分類したがるだろうけれど、きっとTENGAが目指しているのは全然違うところなんだろうな、と凄く興味を持ちました。TENGA自体は知っていましたが、衝撃的な出会いでしたね。」

TENGAについて思うところがあれば、教えて下さい。

「僕自身がマスに向けた発信よりも、『悩みがあるのに誰にも言えなくて困っている』とか『拠り所がない』と感じているような人でも安心してもらえる環境を整えたい気持ちが強いタイプなんです。だからTENGAが明るくカジュアルなイメージをもって、みんなが声に出し難いと感じていた部分をカバーしてくれたのは非常にいいなと思っています。そんなことをして何になるの? って言われれば、それまでの分野じゃないですか。それでもここまで浸透したのは必要とする人達がいたからであって、福祉や医療など様々な分野にも目を向けて積極的に掘り下げていこうとする姿勢にも共感が持てますね。それと、男性陣の前でTENGAの話を持ち出すと『あ、この人にはそういう相談もできるんだ』と心を開いてくれる感があります。コミュニケーションツールとしても秀逸です!」

古川 潤哉(ふるかわ じゅんや)

古川 潤哉(ふるかわ じゅんや) 浄土真宗本願寺派 僧侶

浄土真宗本願寺派浄誓寺 僧侶(佐賀県伊万里市)
1976年生
龍谷大学文学部真宗学科卒

・浄土真宗本願寺派 子ども・若者ご縁作り推進委員
・医療法人光仁会西田病院倫理委員
・日本思春期学会理事

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