VOICE #57 小林 幸一郎(視覚障害クライマー)

TENGA
VOICE
#57

小林 幸一郎

「TENGAは大きな手助けになるだろうし、必要としている人達にとっての“光”になり得るんじゃないかと思います。」

小林 幸一郎
(視覚障害クライマー)

今回のTENGA VOICEのゲストは、視覚障害クライマーの小林幸一郎さん。視覚障害というハンデを持ちながら、2014年9月にスペインで開催されたクライミング世界選手権視覚障害者部門男子B1クラスで金メダルを獲得するなど、世界的な大会で数多くのメダルを受賞するトップアスリート。NPO法人「モンキーマジック」の代表も務めています。多方面から視覚障害者に向けたクライミングの普及活動を行う小林さんに、クライミングの魅力から視覚障害と“性”のお話まで真摯に語っていただきました。

クライミングとの出会いと、モンキーマジックを設立したきっかけについて教えてください。

「スポーツが得意なわけでも別に勉強がよくできるタイプでもなく、周りの友達と比べて自分も何か夢中になれるものがひとつあったらいいのに…と思っていました。そんなとき書店でたまたま手に取った『山と渓谷』という雑誌で見た、フリークライミングというものに興味を惹かれ、親に頼み込んで教室に通わせてもらえることになったのが高校2年生の夏休み。その後、28歳のときに進行性の『網膜色素変性症』という病気が発覚して将来失明すると診断されます。しばらくは落ち込んで、将来どうするかも考えられない時期がありました…。しかし、その後様々な出会いを経て、改めてクライミングと向き合う機会をもらい、せっかくなら自分の好きなことをして生きていきたいと考え、2005年にフリークライミングを通して、視覚障害者をはじめとする人々の可能性を大きく広げることを目的としたNPO法人『モンキーマジック』を設立しました。」

具体的にはどんな活動をされているのですか?

「定期的に実施する視覚障害者に向けたクライミングスクールのほか、盲学校に通う子どもたちにクライミングを教えたり、今年の3月には茨城県つくば市に自営のボルダリングジム『モンキーマジックつくば』をオープンさせました。イベントや講演会に招待されることもあり多方面から視覚障害者へのクライミングの普及活動を行っています。」

9月にスペインで行われたクライミング世界選手権での金メダル、おめでとうございます。

「ありがとうございます!2011年から障害者部門が設けられ、過去3回とも日本代表として出場しています。ここではスピードは関係なく誰がより高くまで登れるかを競います。壁の高さは約15メートルくらいなんですが、壁に傾斜があったり持ち手が小さくなっていたりと、上に行くにつれて徐々に登り難くなっていきます。人工の壁に取り付けられた石の形や配置は、“ルートセッター”という人たちによって決められているんだけど、僕らは“課題”って呼んでいて、いわばクライミング自体が身体を使った“謎解き”なんですね。もし謎が解けたとしても体力が保もたなかったら登れないし、体力があってもルートを間違えてしまったら上には到達できない。そうやって頭と身体を使いながら登っていく面白さがクライミングの魅力ですね。」

視覚障害の方がクライミングを楽しむことの意味ってなんですか?

「基本的にクライミングは勝ち負けのないスポーツで、練習すればするだけ自分の成長を身体で感じることができる。これは目が見えても見えなくても変わりません。そしてクライミングを通して目標を達成したという経験が自信に繋がる。これを『自己効力感』と呼びますが、この壁が登れるようになったんだから、あんなこともこんなこともできるはず!っていう自信に繋がるし、自らの持つ可能性に目を向けるチャンスにもなる。視覚障害者の中には引きこもりがちな人も多いのだけど、毎日の生活においても、友達との待ち合わせにひとりで電車で出かけてみようかな…というところから始まって、もしかしたらひとりで飛行機に乗って仲間と旅行にだって行けるんじゃないか?と思えるかもしれない。それって大きな変化ですよね。」

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クライミングを通して小林さん、そして「モンキーマジック」が目指すものはなんですか?

「僕はNPOとして目の見えない人に向けてクライミングの普及活動をしていますが、あくまでスポーツとしてのクライミングを楽しんでもらうことがゴールではない。例えば、見えない僕と見える彼(そこに居るスタッフを指し)が、ふたりで気軽にクライミングに出掛けられるような環境、それこそが本来あるべきユニバーサルな社会じゃないかと思っています。多様な人たちが分け隔てなくお互いを認め合える社会は理想ですが、それを実現するのはなかなか難しい。なぜかというと、そもそもお互いを理解する“キッカケ”がないからです。最近だとマンションで隣に住んでいる人が誰かも知らない…って人も多いでしょう?接点がないからどんな人かもわからない。」

確かに同じ物音ひとつでも、相手を知っているかどうかで受け取り方が全然変わりますね。

「障害者に対しても同じ事が言えるはずで、相手をよく知らないから何となくネガティブなイメージを抱いてしまう。だったら “接点”を作ればいいんじゃないか?と思いました。それも特別に作られたその場限りのモノじゃなくて、人々が自然と集まって継続的に繋がれるような普通の場所。クライミングだったら目が見えていようがなかろうが、皆で一緒に楽しむことができます!そんなクライミングのような社会を実現させたいです。」

視覚障害者支援の観点から、何かTENGAができることってあるんでしょうか。

「いま視覚障害者の中で一体どれだけの人がTENGAを知っているかというと、多分まだ殆どの人が知らないんじゃないかな。そうした情報が取りにくい人たちに向けてどうやって伝えていくか?そのアクセスの作り方にも、何か“TENGAらしさ”をプラスして展開してくれたらいいですね。さっき、“ユニバーサルな社会”について触れたけど、“性”についても臆さず話し合える世界になれば、それだってひとつの方法だと思う。こんなに素敵なものがあるなら、それを必要とする人に伝えて欲しい。届けて欲しい。TENGAならできると思います!」

小林さん自身はTENGAを使ったことはありますか?

「ありますよ。良くできてますよね〜!実は最近、いわゆる自慰行為をあまりしていなくって…、今回のインタビューで何かいいこと言わなきゃと思って、久しぶりに腰を据えて取り組んでみたんです(笑)意識してやってみると気付くことも多くてね。目が見えたときはエロ本だのAVだの視覚的な手助けがあったけど、今はそれがないから、オナニーのきっかけをどこに見出せばいいんだろう…と少し悩んでしまいました。やっぱり目に飛び込んでくるものが減ることで、性的興奮の糸口が非常に失われてしまうみたいですね。『いいオンナだな〜』と女性をエロい目つきで見てしまうのだって、顔やボディラインを目で追って引っ掛かってきた情報から興奮に結びつけるわけですから、性的な意味でも視覚って重要なんだなぁと実感しました。」

差し支えなければ、目が見えない方ならではのオナニーエピソードがあれば教えてください。

「オナニーとは違うんですけど。友人に割と女好きする顔立ちで、女性から言い寄られるタイプの男がいるんですが、十代で進行性の目の病気が発覚して、だんだんと暗いところから見え難くなっていったそうです。女性って明るい場所でセックスするのに抵抗ある人が多いと思うけど、その時の彼は『とにかく見たいんだ!』と、ホテルのライトを全開に明るくしてやっていたそうです。僕も視覚を失うまでは意識していなかったけど、それくらい『目で見る』って大きいことなんです。本能的な欲求ですから。」

目が見えない、見え難い方って、普段どこから新しい情報を入手するのですか?

「視覚障害は“情報障害”とも言われます。目が見えない分、情報を受け取る(発信する)のに時間がかかる。だから、新しい情報に対してどうやってアクセスするかって所が凄く重要なんです。方法としては、例えば本を“目で読む”代わりに、朗読された録音データを“聞いて読む”のが一般的です。ネット上に蓄積されている共有のデータベースがあるんだけど、人気ランキングのトップ10の内の大体7つくらいはいつも官能小説なんです。面白いでしょ?僕も試しに聞いてみたんだけど、おばちゃんが淡々と朗読しているだけで、情緒もあったもんじゃない(笑)それでも視覚的な刺激が減っている我々にとっては貴重な情報源。見たいけど見えない、いつまで経っても満たされない感覚……、つまりは気持ちの拠り所がないんですね。そんな状況の中できっとTENGAは大きな手助けになるだろうし、必要としている人達にとっての“光”になり得るんじゃないかと思います。視覚障害があったって、こういうものに対しての興味関心は、みんな失ってないってことが証明されているわけだから!」

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小林 幸一郎

小林 幸一郎
1968年東京都生まれ。

16歳でフリークライミングと出会う。28歳のとき「網膜色素変性症の類縁疾患、錐体桿体(すいたいかんたい)機能不全」という目 の難病が発覚。「将来失明する」という診断に失意の日々を送るが、その後様々な出会いから現在の活動まで至る。

2005年 NPO法人モンキーマジック設立
2011年 クライミング世界選手権イタリア大会視覚障害者B2クラスで優勝
2012年 クライミング世界選手権フランス大会視覚障害者B2クラスで準優勝
2014年 茨城県つくば市に「ボルダリングジム モンキーマジックつくば」オープン
2014年 クライミング世界選手権スペイン大会視覚障害者B1クラスで優勝
現在、視覚障害者を主な対象としたフリークライミングの普及活動を行っている。

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